ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972)@アテネフランセ文化センター

題名やクレジットが被さるファースト・カットで電気が走るように受けた衝撃は最後まで消えることはなく、思わず身を乗り出してしまうほど凄い映画だった。全5シーン、いずれも同じ一つの部屋で物語が展開したにもかかわらず、その狭い空間を最大限に利用した「奥行き」を感じる構図が常に広がっていた。だからカットが変わるたびにその部屋は無限に姿を変え、油断すると今何を見ているのか、奥に何が存在するのかがわからなくなってしまう。登場人物のゆったりとした動きに呼応するようにのっぺりと移動するカメラワークもまたそういった感覚を助長する。そしてラストシーンでは、本当にひとり取り残されてしまったような気分になった。(今野)