黒藤院『目覚める前に』@STスポット 

「出会い」の有効性についてのささやかなレッスン。──正直に打ち明けてしまえば、暗黒舞踏に大した関心はなく、黒藤院が山海塾から分派した集団であると聞いても、さほど心が動かされるわけではない。実際、チラシをつらつら眺めてみても、いわゆる「Butoh」のステレオタイプ以上のものがそこに見いだされるわけでもなく、「目覚める前」の混沌とした意識以前の状態を白塗りの男や女たちが踊るわけか、という既視感めいた感慨に襲われてしまう。ところが実際の公演では、白塗りのダンサーの傍らで普段着のまま演奏をする恥骨が予想以上に重要な役割を担っており、一種のオムニバス形式のコラボレーョンとして見ることができた。「目映い光の中で誰かが私を呼んでいる」(チラシより)と口では言うものの、変な人が路上でまた別の変な人とたまたま遭遇してしまい、なぜかそこにドラマーが居合わせたという、言葉にすればいかにも身も蓋もないが、とりあえずスリリングではある展開。ただし一つ留保をつけておけば、この出会いのスリリングさも、ややもすればいささか生ぬるい共感の地平を形作らないとも言い切れず、変な人と変な人が出会えばそれでいいのだと、そうオプティミスティックに構えてばかりもいられない。もちろん当人たちは百も承知だろうが、そこには「出会い」のための長い対話が必要である。(彦江)